経営承継円滑化法は、内容以前に、その一部である納税猶予等の税法関連部分が来年4月1日に施行されるにも拘らず、平成20年10月1日に遡及適用されるというアクロバティックなスケジュールとなっているところから、必然的に我々実務家の注目を集めるものですが、この機会に、(1)遺留分に関する民法特例、(2)経営承継時の金融支援、(3)相続時の納税猶予等の3つの部分から成る、この法律について内容を概観してみたいと思います。
─ 遺留分に関する民法特例について ─
遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人に対して留保された相続財産の割合をいい、被相続人が相続開始の時において有した財産に、相続開始前の一年間にした生前贈与、特別受益(被相続人からの遺贈又は婚姻若しくは養子縁組のための若しくは生計の資本としての贈与)を加え、債務を控除したものに法定相続分の1/2を乗じて算定されます。従って、自社株や事業用資産の割合が高い中小企業経営者の場合には、経営資源の所有権が分散し、また、生前贈与や遺贈された自社株も相続時点での評価による特別受益となるため、後継者が増大させた自社株の価値も、遺留分算定の対象となります。さらに、この遺留分を被相続人の生前に放棄する場合には、放棄する人が家裁の許可を得る必要があり、あまり利用されていないのが実情です。
こうした代表者交代に伴う経営の承継の障害を軽減するため、一定の要件を満たす、特例中小企業者である会社の旧代表者から過半の株式を贈与等により後継者が取得した場合、(1)旧代表者から後継者に贈与された自社株を遺留分算定の基礎となる相続財産から除外する合意(除外合意)、(2)旧代表者から後継者に贈与された自社株の価額を合意した時点の価額に固定する合意(固定合意)が、旧代表者の推定相続人の全員の合意を前提として可能となりました。また、(1)と(2)の合意の両方かどちらか一方の合意が成立した場合、後継者が自社株以外の財産の贈与を受ける場合や後継者以外の推定相続人が財産の贈与を受ける場合にも、遺留分算定の基礎となる相続財産から除外できる合意((3)付随合意)も可能です。
民法特例のこれらの合意は、経済産業大臣の確認と家裁の許可により有効となります。また、施行は平成21年3月1日からですが、施行日以前の贈与自社株も合意の対象と出来ます。但し、当該合意は施行日以後に可能となります。
─ 経営承継時の金融支援について ─
代表者交代に伴う経営を承継するため、自社株や事業用資産の買い取り、相続税の納税資金、MBOやEBOによる自社株買い取り等、多額の資金需要が想定されますが、これらに対処するため、会社や個人事業主、および代表者個人への金融支援の特例が定められ、平成20年10月1日から施行されました。しかし、金融支援の対象として認定されても、金融機関等においても独自の貸付審査があるため、金融機関の実際の運用状況を注視する必要があります。
─ 相続時の納税猶予等について ─
相続税の納税猶予等の税制改正とは、これまで10%の減額にとどまっていた自社株の課税価格の特例を、発行済株式数の2/3に達するまでの部分の自社株に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税を猶予し、さらに死亡時まで対象となる株式を保有する等の一定の場合には猶予した税額の納付を免除する特例に改正するものです。
特例を適用するためには、被相続人は過半の株式を保有し同族内で筆頭株主である会社の元代表であり、相続人は被相続人の親族であり、過半の株式を保有し同族内で筆頭株主である会社の代表であり、かつ、5年間会社の代表であり、雇用の8割以上を維持し、相続した自社株を継続保有する必要があります。また、会社は中小企業基本法の中小企業であり、非上場であり、かつ、資産管理会社でない等である必要があります。さらに、経済産業大臣による(1)被相続人の生前に計画的な事業継承に取り組んでいる事に付き「確認」を受け(施行から1年半は猶予期間として不要)、(2)被相続人の死亡時に「認定」を受け、(3)その後、5年間は事業継続や雇用維持等の「報告」を行う必要があります。
なお、この納税猶予等の特例は平成21年4月1日施行予定の平成21年度税制改正により、遡って平成20年10月1日から適用される予定のものです。
(事業継承に関する内容についてはコチラをクリックして下さい。)